彼にしか見えていない「異彩迷路」に迷い込む。作家・高田祐が生み出す独創世界【異彩通信#12】

「異彩通信」は、異彩伝道師こと、Marie(@Marie_heralbony)がお送りする作家紹介コラム。異彩作家の生み出す作品の魅力はもちろん、ヘラルボニーと異彩作家との交流から生まれる素敵な体験談など、おしゃべり感覚でお届けします。「普通じゃないを愛する」同士の皆さまへ。ちょっと肩の力が抜けるような、そして元気をもらえるようなコンテンツで、皆さまの明日を応援します。

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子供の頃、大きな公園にあった「迷路」に入ったときの、あの不思議な感覚を今でも覚えています。

小さい身体故に、左右の壁は高く厚く感じられ、「このまま一生出られなくなってしまうのでは」という不安な気持ちと、必死になってゴールを探すワクワク感が入り混じった、まるで絵本の中の物語に迷い込んでしまったかのような感覚。

今回の異彩通信の主人公は、独自の「迷路」を描き続けるエンターテイナー、高田祐(Yu Takada)。高田さんの作品を通して、大人になったあなたを夢見る迷路遊びにお連れしたいと思います。

入口と出口は端っことは限らない

ダウン症の異彩作家・高田祐が10年以上にわたって描き続ける「迷路」シリーズ。一見ランダムに描かれた図形が並んでいるように見えますが、ちゃんと入口と出口のある歴とした「迷路」です。

スタッフ「入口は?」 高田「ここ」
スタッフ「出口は?」 高田「ここ」入口と出口が端にあるとは限らないということを、高田さんに教えてもらいました。常識とは、一体何なのでしょう。どこが入口で、どこが出口か。想像しながら作品を眺めてみるのも高田作品ならではの楽しみ方です。

高田の目に映るディズニーランド

かつて高田さんご本人から直接お話を伺ったことがあります。高田さんは、この迷路の中では「パレード」が行われており、「アラジンのカーペット」で移動できるのだと教えてくれました。

「パレード」「魔法のカーペット」というフレーズでもうお分かりでしょうか、高田さんはディズニーをこよなく愛する異彩作家。これらの迷路は、ディズニーランドの世界にインスピレーションを受けて描かれています。

ディズニーランドにもよく遊びに行っており、中でも「プーさんのハニーハント」や「シンデレラ城」がお気に入りなのだそう。高田さんは、迷路を描きながらイマジネーションを膨らませて、大好きなディズニーの世界を自ら生み出し、夢のような景色をたどって楽しんでいるようです。
「迷路」何にも縛られることを知らず、どこまでも自由な高田ワールドに触れたところで、「パレード」という作品を見てみましょう。
「パレード」夜の迷路の中を煌びやかな衣装に身を包んだ踊り子たちが、神秘的な光を放ちながら歌い舞い踊り、楽しい音楽隊とともに進んでいるかのようなイメージが浮かんできます。

高田さんが描く「夜のディズニーランド」は、鮮やかなイエローグリーンが印象的です。
「夜のディズニーランド」アトラクションやお店を彩るカラフルな灯によって、暗い夜の空をも昼間のように明るくしてしまう、ディズニーランドの楽しい雰囲気が伝わってきます。

子供のころ、夜のディズニーランドは特別な場所でした。夜遅くまで外で遊べるドキドキ感と、煌びやかなネオンが光る美しい風景に胸の高鳴りが止まなかった、あの時の遠い記憶ーー。きっと高田さんの目にも同じように映っていたことでしょう。

「迷路=平面」という既成概念を覆す高田ワールド

驚かされるのは、出口と入口の位置だけではありません。高田さんの描く迷路をよく目を凝らして眺めてみるとーー。背景の下にうっすらと別の迷路が浮かび上がっていることがわかります。

「迷路」施設の方によると、高田さんは一度描いた作品を全部塗りつぶし、その上に新たな迷路を描き続けることがあるそう。さらにご本人とお話する中で、実は2階建ての迷路を描いていたということが判明したのだとか。

「迷路=平面」という既成概念を覆す高田ワールド。もしかしたら3階建て、4階建ての迷路もあってもおかしくないでしょう。気づけば、常識という名の壁が取り払われた独創的な迷路の中で、私たちは心地よく迷い続けているのでした。
「迷路」「迷路」

面白いことをぼそっと言って笑わせたい

高田さんは、周りを楽しませることが大好きな生粋のエンターテイナーでもあります。

在籍する自然生クラブでは、身体表現の活動も盛んに行われており、田楽舞の太鼓では中心的な役割を果たしています。

太鼓を叩く高田さん(右)
太鼓のあとは、花を片手に舞を披露。
演目終了後、拍手が起こると嬉しそうな高田さん普段の生活の中でも、他の人を笑わせたり、楽しませたりすることが好きだといいます。積極的に笑わせようとするのではなく、ぼそっと面白いことを言うのが、高田さんのスタイルなんだとか。

「迷路」を描くことも、もしかしたら自分が楽しいから描いているというだけではなく、見る人も楽しい世界に迷い込んで欲しい、そんな想いも込められているのかもしれません。

彼らにしか見えていない世界を覗いてみよう。

「迷路」

高田さんの描く「迷路」は、私たちにたくさんのことを教えてくれます。

「ダウン症だから」「自閉症だから」そんな偏見や制約なく、誰もが一人の人間として、互いに楽しんだり、楽しませたりできるということ。

そして、人は誰しも自ら限界を作ってしまったり、誰に言われるでもなく思考に制限をかけてしまうことがあります。高田さんの、抑圧を受けずに解放された自由な発想と個性は、現に私たちの凝り固まった考えをほぐし、心の豊かさを与えてくれます。
彼らの表現を通して、彼らにしか見えていない、眩しくて伸びやかな世界を覗いてみよう。均一化された社会の中で、人ってこんなにも多様で、こんなにもおもしろいんだと、あなたに気づかせてくれるはずだから。

「自閉症」「ダウン症」「障害」という枠組みを超えて、誰もが、かけがえのない存在として、その人らしく生きていける世界になるよう、HERALBONYはこれからも活動していきます。

高田祐「迷路」が限定ネクタイに

3/21「世界ダウン症の日」4/2「世界自閉症啓発デー」をまたぐ期間を、HERALBONYではHERALBONY BUDDY WEEKと名づけています。
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異彩の「バディ」となって伴走するこの期間、「自閉症」「ダウン症」を多くの人に知ってもらうべく、今年は限定プロダクトとして高田さんのアートを忠実に再現したネクタイが、数量限定で復刻販売中です。異彩作家のアートをまとって、誰もが生きやすい未来へ。

この作家の作品が起用されたプロダクト 

ボウタイブラウス「迷路」シャツブラウス「迷路」
「迷路」原画作品「迷路」原画作品(6月末までの販売)

 

高田祐 Yu Takada


自然生クラブ(茨城県)在籍

東京都出身。伊奈特別支援学校高等部に在学中から、自然生クラブの太鼓ワークショップに参加し、抜群のリズム感を披露していた。2001年より自然生クラブのメンバーとなり、農作業や絵画、ダンスなどの表現活動に取り組み、ベルギー、香港、デンマークなど海外公演にも参加。田楽舞の太鼓で、中心的役割を果たす。ダウン症、健康上の不安を抱えながらも豊かな感受性と想像力で、その表現の幅を広げている。2013年秋、個展「色彩の迷路展」を開催。

編集:赤坂 智世
文:北村 茉里映(ヘラルボニー)